書評

【書評】『蒲団』ガチ恋した弟子に裏切られて号泣しちゃう作家の話※ネタバレあり

こんにちは! 藤原のパクチーです。

年が明けて気分新たに本を読もうと思っているあなた!

挫折しないくらいのちょうどいい長さのオススメの本がありますよ〜

さて、今回取り上げるのは田山花袋(たやま かたい)の『蒲団』(ふとん)です。

高校3年の時、担任にオススメしてもらった作品で、今でも本当に大好きなお話のひとつです。

弟子に恋した中年作家の話なのですが、オチが本当に良いんです。

ではでは詳しく解説していきます。今回もネタバレありなので注意です。

『蒲団』は私小説の出発点

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少しだけ、文学のお勉強をしたいと思います。

ここのお勉強の内容をちょこっと頭に入れておくと、この作品の面白さが格段に増すので少しだけ我慢して読んでいただけると嬉しいです。

さて、日本の文学に私小説(ししょうせつ・わたくししょうせつ)というジャンルがあります。

私小説とは簡単にいうと自分の生活体験や恥ずかしい自分の内面など、作者自身が体験した事実をもとに書く小説のことです。

蒲団」が書かれたのが1907年(明治40年)。今から100年ほど前です。

蒲団」の登場によって、大正時代から昭和初期まで、自分の内面を暴露するような内容の小説が主流となりました。

そこで押さえておいて欲しいのが、

この作品は田山花袋が自分自身のしくじりエピソードをモデルにして書いたということです。

ここは非常に大事なポイントになってくるので、頭の片隅に置いておいてください。

さて、日本の近代文学に大きな影響を及ぼしたこの作品がどんなお話なのか気になってきたところで、以下にストーリーを簡単にまとめてみました。

①厳格な作家なのに弟子にガチ恋してしまった。
②ガチ恋した弟子に裏切られたので地元に帰した。
③ガチ恋した弟子の部屋で泣いてしまった。

かなりざっくりまとめたので、細かくみていきたいと思います。

①厳格な作家なのに弟子にガチ恋してしまった。

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主人公の「竹中時雄」は超カタブツな作家です。

当時ならわりと一般的な男性なのでしょうが、それにしても度を越した、これぞ「日本男児」という感じの頑固オヤジです。

そんな妻も子もある厳格な作家先生が、田舎から上京してきた弟子の芳子に恋心を抱いちゃうんですね。

芳子は当時の言い方でいうとハイカラな娘で、現代風のイケイケな感じの女の子です。

その昔、女性は軽々しく男性と話をしたりしなかったようですが、現代的な考え方をもっている芳子は全く違っていて、男性と気さくにお喋りしたりしていました。

そんな風にハイカラで、いつも元気に「先生!先生!」と慕ってくる芳子。

時雄はめちゃくちゃ苦しみます。

時雄には、文学を極める者、物書きの師匠としての立場がありますから、そう軽々と弟子と仲良くなり過ぎるわけにはいきません

芳子時雄のことを文学の師匠としてものすごく尊敬しているので、余計に期待を裏切ることはできないんですね。

ましてや相手は学生でまだまだ若い女の子。こんな師弟の関係で仲良くなり過ぎてしまったら…。

そして何より、時雄には奥さんがいて、子どももいるんです。

ああ、それなのに…。どうしよう!!

②ガチ恋した弟子に裏切られたので地元に帰した。

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弟子入りした芳子はしばらくして「田中秀夫」という男と付き合い始めます。

芳子が地元に帰省したときに出会って、仲良くなった人のようです。

芳子は何の許可も得ずに、田中と京都で遊んでから時雄の元に帰ってきました。

いくらおてんば娘といえども、これにはみんな大激怒です!

学生の身でありながら、男と隠れて京都で遊ぶなど、精神の堕落であると親族から非難されますが、これに対して芳子は反論します

この部分は当時の恋愛観を知ることができて面白いですね。

現代的に考えると、「大学生が恋人と京都で遊ぶくらい何だ」と思ってしまいますが、当時はとんでもないことだったんですね。

そして、時雄は彼女を監視するために自分の家に住まわせます。

これで一安心かと思いきや、まもなく、芳子田中が隠れて会っていたことが発覚。

しかも田中は小説家を目指すために、神戸から上京してくるというのです。

時雄は怒って、芳子を地元に帰してしまいました。

③ガチ恋した弟子の部屋で泣いてしまった。

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さて、時雄は師匠としての立場を貫いて、芳子を地元に帰してしまったわけですが、これはめちゃくちゃ悩んだ末の決断でした。

時雄36歳。結婚生活が色あせていた時に、不意に戻って来たあの恋の感覚。

近くに芳子がいるだけで時雄の世界は間違いなく色を取り戻したのです。

けれどもう、芳子はいません。

時雄はこれでよかったのだと自分自身に無理やり言い聞かせようとします。

嘆き悲しむ時雄は、芳子の面影を偲びたくなって、数日前まで彼女がつかっていた部屋に入ります。

部屋の状態はほとんどそのままで、彼女はいつものように学校から帰ってくるのではないかとさえ思われます。

時雄は机の中から彼女がつかっていたリボンを見つけました。

おもむろにリボンの匂いをかぎます。

するとたまらなくなって押入れを開けると、彼女がつかっていたふとんを引き出します。

そしてふとんに染み付いた彼女の残り香に思いを馳せ、頬を濡らすのでした。

これが一連のお話です。

『蒲団』を書いたその後どうなったのか?

冒頭で、この作品はおおよそ事実に基づいて書いていると説明しました。

つまり主人公の時雄作者自身であり、作者の田山花袋本当に弟子に恋をし、裏切られ、ふとんにの残り香に思いを馳せて泣いたということです。

この作品が発表された時、当然、世の中は大騒ぎになりました。

まだ、今ほど自由ではない時代のことですから、その衝撃は凄まじいものだったと思います。

田山花袋自身も、のちに刊行された本の中で打ち明けたら、自己の精神も破壊されるかと思われるようなものを出す覚悟で書き上げたと述べています。

実際、世の中の声としては賛否両論あったようですが、この作品自体は文学界では絶賛されました。

とんでもない事実を社会に暴露したことで、田山は世間的にどういう扱いを受けたのか、奥さんとの関係はどうなったのか、などが気になるところではありますが、そこまでは詳しくわかりませんでした。

ただ、文学界に確固たる地位を築き、その後も作品を発表し続け、58歳まで文学ひとすじの人生を走り抜いたようです。

一方で、芳子田中のモデルとなった二人、岡田美知代永代静雄は世間から長い間「堕落学生」のレッテルを貼られ、苦難の人生を歩んだようです。

のちに、田山花袋は岡田美知代にお詫びの手紙を送っています。

まとめ

個人的にいいなあ!と思うポイントは芳子の魅力が伝わってくる描写と、それに抗おうと悶え苦しむ時雄の姿です。

全体的にかなり生々しくてリアルなので、結婚生活を経験されている方は時雄の気持ちがよくわかるんじゃないかなと思います。

というわけで『蒲団』ぜひ読んでみてください。

ちなみに最初から最後まで、青空文庫でタダで読めます。

少し昔の文体で書いてあるため、ちょっぴり難しいかもですが、短くて読みやすいのでぜひ!